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運を育てる~肝心なのは負けたあと~

公開日: : 最終更新日:2013/10/19

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『運を育てる』 米長邦雄

 将棋界で名人にもなった著者を知らなかったという自分の無知は恥ずかしいが、この本がブックオフで105円で売られているのも驚きだ。本を持っているだけで運が良くなりそうな本なのに、売り払うなんて・・。
 でもそのおかげでこの本を手に出来たぼくはなんてラッキーなんだ(笑)

 ポイントをいくつか抜粋。

●「勝利の女神が最も嫌う言葉」

 成績のよい子がすべて素直だとは言えないが、悪い場合には、どこかに素直になれない原因があると考えた方がいい。家庭環境なり、先生に対する気持ちなり、何かしらイライラするところがあるおんだ。
 それが、息子たちのように自らの能力をわざと発揮しない、といった形で現れたりする。さらに始末が悪いことに、これを放置しておくと、本当に自分には能力がないと思い込んでしまう。「どうせ俺なんて・・・」--これは勝利の女神が最も嫌う言葉である。

●「眼の前の一局がすべて」

 どうやら、勝負と言っても野球と将棋では、その根本的な部分で相違があるのかもしれない。腕も折れよと全力投球を繰り返し、肩が抜けてしまってはプロ野球の選手としては、やはり失格だろう。
 しかし、運動能力とは関係のない将棋の世界では、勝利の女神が見る場所はまた別のようだ。私の経験から言っても、勝利の女神は、森下六段の苛烈な生き方のほうを、より好むようである。「消化試合に全力投球」という考え方が浸透した将棋界だが、これからは、「眼前の一局」という哲学が拡まりそうな雰囲気である。

●「惜福で生きるという考え方」

 源義経、司馬仲達、范蠡(はんれい)、こうして三人を並べてみると、おのずから見えてくるものがある。
 攻めるべきところ、守るべきところ、これをはっきりと区別できない人間は身を滅ぼす。長期的に見て何が最善か、自分の幸せにとって何が大切なのか、それが洞察できなければ、白星の積み重ねが裏目に出てしまうことも多いのである。

 幸福に遭う人の多くは「惜福」の工夫のある人であって、悲運の人のほどんどは、その工夫のない人である。
 「惜福」とは、文字通り福を惜しむことで、自分に訪れた幸福の全てを享受してしまわず、後に残しておくという意味である。
 たとえば、今ここに100万円があり、自由に使っていいとなったとき、一円も残さず浪費してしまうのは惜福の工夫がない人である。

●「重要な決定では、必ず勝ち組に入れ」

 トップを目指すのであれば、集団にあって、何か事を決めなければならない場面では、気をつけなければならないことがある。必ず勝ち組に入るということだ。集団として決断した最後の議論と自分の主張が合致していなければならいのである。
(中略)
 私は、何か重大な問題について意見を述べる際には、それが勝ち組に入るか否かを冷静に考えることにしている。そして、少しでも負け組入る危険を感じれば、黙っている。そして、自分の意見が正しいと思っても、負け組の旗は絶対に振らないように努めてきた。
 「自分の意見が通らないと思ったら、言わないなんて、情けない」と思われるかもしれないが、そうではないのだ。
(中略)
 こういった問題でも負け続けているうちに、それに慣れてしまい、ついには、負け組の視点でしかものを見られなくなる。それが将棋に及ぼす影響が怖ろしいのである。

●「運気はどこで育つか」

(愛妻家で子煩悩だが、同居している母親と奥さんの間がうまくいっていないという後輩の話)
 すばらしい才能があって、真面目に一所懸命勉強しているのだが、最後のところで壁に当たってしまう。
 私から見ると、勝利の女神に横を向かれているとしか思えない状態であった。彼女が、この男にちょっとでも微笑みさえすれば、勝ち星はグンと増えるはずだと思って、あるときアドバイスをしてみた。
(中略)
 最も簡単な方法まで教えたのだが、ダメだった。彼には愛人を作る、または芝居を打つという芸当はとてもできず、家庭内の序列を宣言する勇気もなかった。
 「修身・斉家・治国・平天下」という言葉がある。修身だけはできたが、次のステップへ行けなかったのである。
 はたから見れば、あんなに才能があって真面目にやっているのに、どうしてだろうということになる。もっとタイトル戦に出てきてもよかったのになあ、と才能を過去形で惜しまれる人物になってしまう。しかし、私が思うには、勝利の女神が家の空気を見て、機嫌を悪くしているだけのことなのである

●「優勢になっても安全策を採るな(7度目の名人戦)」

 不利になって追い詰められても、座して死を待つような手を指さないのが中原流で、積極果敢に討って出てくる。案の定、昼食少し前、中原名人は角を切って猛攻を仕掛けてきた。
 これまで私が名人戦で中原名人に分が悪かったのは、ここで間違えてしまうからだ。こちらが優勢を意識し、それを大事にしようと思えば思うほど、その手に乗ることになる。
 将棋の局面で優勢になるとは、人生で言えば、少しばかり金が儲かったという程度のことである。これを定期預金にしてじっと待っているようでは勝ち切ることはできない。その金を何か新しい事業に全額投資して、その事業を成功させなければ最終的な勝ちにつながらない。
 つまり、現在の優勢を維持するだけではなく、それを使って新たな優勢を作り出していく、そういう手を選んでいくということであり、このとき躊躇わず、その道を選んだ。
(中略)
 その手から14手で中原名人が投了した。NHKの衛星放送で解説をしていた羽生竜王は、第四局についてこう述べた。
 「本局は米長先生の積極的な指し手が目立ちました。優勢になってからは、まったく安全策というものがありません
 さすがに羽生竜王で、見るべきところをしっかり見ていた。

 いくらエッセンスだけを抽出しても、この本の本当の良さは伝え切れないんだろうなと思う。「運」とか言うと、楽して勝とうって思う人が引っかかるのかもしれないし。逆に努力を惜しまない人は「運」に頼るなんて・・って思うかもしれない。
 ここで書かれているのはそんなに薄っぺらい話ではなくて、著者の将棋人生から学んできたことを晒してくれている。著作の『人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ』『われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る』も続けてぜひ読みたい。

 ちなみに、われ敗れたりの電王戦については、ちょっと前にちきりんさんがブログで面白いエントリを書かれていますね。
 この記事を読んだときは、米長永世棋聖って言われてもピンときてなかったんだよなあ。この記事で書かれている人が米長氏だったと、思い出せてよかった。

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